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ドットの接続

第80回

「自分は大丈夫」が一番危ない 
~AI時代の詐欺とサイバー攻撃~

2026年を迎えても、特殊詐欺やSNS型投資詐欺、ロマンス詐欺の被害は一向に収まる気配を見せていない。警察庁の発表によれば、2025年11月末時点での認知件数は3万8千件を超え、被害額は2,763億円に達した。しかもこれは、あくまで「警察に届け出た分」に限られた数字であり、家族に知られることを恐れて被害を隠す人や、恥ずかしさから相談できない人が相当数存在すると考えられている。実態は、この数字を大きく上回っている可能性が高い。

 

詐欺がこれほど身近な脅威となった最大の要因は、スマートフォンとSNSの普及にある。詐欺師は、時間や場所を問わず、誰にでも直接接触できる環境を手に入れた。さらに、過去に漏えいした個人情報やSNS上の投稿内容を材料に、相手の関心や弱点を突く話題を選び、巧妙に心を揺さぶってくる。サイバー攻撃も同様で、単にセキュリティ機器やソフトウェアの脆弱性を突くだけでなく、人や管理者の意識の甘さを狙った攻撃が増えている。メールや電話でパスワードを聞き出すといった、いわゆるソーシャルエンジニアリングを伴う手口は、もはや例外ではない。

詐欺と不正アクセス01.jpg

こうした傾向は、今後さらに強まると考えられる。その理由は、詐欺師と一般市民との距離が、かつてないほど近づいているからだ。スマホとSNSを通じて、詐欺師は常に連絡を取ることができ、漏えいした個人情報を組み合わせることで、相手に合わせた「もっともらしい話」を簡単に作り上げられる。とりわけ、物価高や金利、株価といった「お金」に関する不安が高まる社会状況は、詐欺師にとって格好の材料となる。不安や焦り、そして欲望は、人の判断力を著しく低下させるからだ。

 

ここに、生成AIという新たな要素が加わる。生成AIは、巧妙な文章を大量に、しかも短時間で作成できるだけでなく、相手の年齢や立場、過去のやり取りに合わせた口調や説得方法まで自動生成できる。昨年から問題となっているSNSアカウントの乗っ取りも、単に本人を装うだけでなく、その「つながり」にいる友人や家族を狙うための道具として使われている。過去の会話履歴や写真をAIで分析すれば、より信じ込ませるための材料を簡単に用意できてしまう。詐欺はもはや「偶然巻き込まれる被害」ではなく、「誰もが狙われて当然の社会」へと変わりつつある。

 

サイバー攻撃もまた、単純な技術的侵入にとどまらなくなるだろう。詐欺的なやり取りを通じて人の心理的隙を突き、そこからシステム侵入や不正アクセスへとつなげる手口は、今後さらに増えると考えられる。また、一般の人が多様なネットサービスを利用する中で、意図的か否かにかかわらず、たとえば決済システムなどの脆弱性を見つけ、それを悪用する不正事例も増えている。重要なのは、その手口が特定の通販サイトだけに通用するものではなく、同種の決済システムを利用する他のサービスにも影響し得る点だ。一つのサービスの悪用が他の事業に拡散していくことは十分考えられる。

 

生成AIには悪用を防ぐための制限が設けられているが、それを完全にすり抜ける方法を排除することは難しい。一方で、AIを防御側に活用し、脆弱性をいち早く発見して対策を講じる取り組みも不可欠である。2026年の新たな危険とは、技術そのものではなく、生成AIによって「人の弱さ」がより精密に、より効率的に突かれる時代が本格化する点にある。その現実を直視しなければ、被害は今後も拡大し続けるだろう。

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