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ドットの接続

第73回

身近に迫る金融機関への
サイバー攻撃、そして詐欺

近年、金融機関を標的としたサイバー攻撃が急増しています。銀行口座からの不正送金や証券口座の乗っ取り、不正な株取引の実行、保険契約情報を悪用した標的型詐欺など、攻撃の手口は年々巧妙さを増し、被害も深刻化しています。こうした攻撃はもはや特殊な犯罪ではなく、私たちの生活のすぐそばにまで迫っているのです。そして何より重要なのは、最終的な被害を受けるのは金融機関そのものではなく、一般市民である私たち一人ひとりだという点です。

 

サイバー犯罪の多くは、メール、SMS、SNS、そして電話など、私たちが日常的に使用するコミュニケーション手段を通じて仕掛けられます。特に「本人確認が必要です」「あなたのアカウントが停止されました」などのメッセージは、緊急性を装って人を動かす典型的な手口です。これらのリンクを不用意に開くことで、パスワードや個人情報が盗まれ、最終的に金銭的被害やなりすまし被害に繋がっていくのです。最近では、これに加えて「ボイスフィッシング(vishing)」と呼ばれる、電話を使った詐欺も拡大しています。犯人が金融機関や公的機関を名乗り、信頼させた上で口座情報やパスワードを聞き出す手口です。特に高齢者に対しては、信頼感を巧みに利用した詐欺が後を絶ちません。また、証券口座を悪用した新たな詐欺手口も見られます。乗っ取った口座に保有されている株式を勝手に売却し、その資金で市場に流通量が少ない低価格の「くず株」を大量に購入、価格を吊り上げて別の口座で売り抜けるという手法です。直接送金を行わずとも利益を得る構造で、被害に気づきにくいのが特徴です。加えて、保険会社へのサイバー攻撃も深刻な問題です。保険会社が保有する情報には、住所や氏名、契約内容のみならず、健康状態や家族構成など、極めて詳細で機微な情報が含まれています。これらが流出することで、「その人に合わせた」詐欺が成立しやすくなります。たとえば、「保険契約の更新について」と名乗る電話で信頼を勝ち取り、あらかじめ得た情報を差し挟むことで、巧妙に騙すことが可能になるのです。

 

では、私たちはこのような状況に対してどのように備えるべきでしょうか。まず大切なのは、「自分も狙われる可能性がある」という危機意識を持つことです。サイバー詐欺はもはや特定のターゲットだけを狙うものではなく、あらゆる世代・立場の人を無差別に巻き込むリスクを抱えています。だからこそ、全ての人が「自分ごと」として考える必要があります。

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そのうえで、以下のような現実的な対策を講じることが重要です。

 

1つ目は、不審なメールやSMSのリンクは決して開かないことです。たとえ送信者名が金融機関や知人であっても、内容に不自然さがあれば要注意です。必ず公式サイトやアプリを経由して確認する習慣をつけましょう。

 

2つ目は、同じパスワードを複数のサービスで使いまわさないことです。一つのパスワードが流出すれば、芋づる式に他のサービスも乗っ取られる危険があります。パスワード管理ツールの活用も検討すべきです。

 

3つ目は、金融機関の通知機能を活用することです。不正なログインや送金が発生した際に即時通知が届く設定にしておけば、初動対応が早まり、被害を最小限に抑えることができます。

 

4つ目は、高齢の家族や身近な人への注意喚起を行うことです。高齢者は詐欺の標的になりやすく、情報リテラシーの差によって被害が拡大しやすい傾向があります。「知らない番号からの電話に出ない」「重要な内容は家族に相談する」といったルールを家庭内で共有することも有効です。

 

また、地域コミュニティや学校、企業などでもサイバー犯罪への対策を啓発する活動が求められます。私たち一人ひとりの備えが、結果として社会全体のセキュリティを底上げすることにつながるのです。サイバー攻撃は今や、特定の組織や企業だけの問題ではありません。情報化社会に生きるすべての人々が、日常的に狙われるリスクと隣り合わせにあるという現実を、私たちは真剣に受け止めなければなりません。大切なのは、「誰かが守ってくれる」ではなく、「自分自身を守る力を育てる」という姿勢です。日々のちょっとした意識と行動が、被害を未然に防ぐ最大の防御となるのです。

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