第32回
意外と近い関係
昨年、一昨年とコロナ禍に苦しめられた年でしたが、勇猛果敢なイメージが先行する「トラ」年の今年はどうでしょうか。コロナウイルスを攻め滅ぼして、経済的にも果敢に攻める年になってほしいものです。しかしながら、年頭の現在、新たな変異株が再度の流行の兆しを見せ始めています。海外では一日に数万人規模で感染者が増えている事例も見受けられます。
一人の感染者が1日でたった2人の人にだけ感染させたとしても、3週間も経たない内に数百万人に感染させてしまいます。まさに指数関数的な増加なのです。これは前回にも述べた「ネズミ算」の問題です。
逆の問題として、コロナウイルスに感染している人と接触する機会はどれほど頻繁にあるのでしょうか。コロナ感染者に限らず、特定の人と何らかの関係で結びつくことはほとんどないように思えます。例えば現在のアメリカ大統領のジョー・バイデン氏や映画スターのハリソン・フォード氏と複数の人の「つて」を頼ったとしてもたどり着かないように思えます。
しかし、「六次の隔たり」と言って、友達の友達と言うように6人を介すれば、世界中のどのような人ともつながりが存在するという仮説があり、証明はされていませんが、強く信じられています。現在、SNSといったネットワークでの情報共有サービスが盛んですが、この仮説に基づいてサービスが成り立っています。「世間は狭い」という言葉があるように、「スモールワールド現象」とも言われています。
意識する、しないに関わらず、この「つながり」を重視したコミュニケーションツールがSNSの特徴なのです。「つながり」には様々な形が存在し、血縁はその最たるものです。友人・知人と言う一般的な社会関係から、学校や組織の所属を介した関係、あるいは共同作業を介した関係です。たとえば、映画の共演者を辿る関係です。特定の人物とどれだけ早く辿れるか、つまり近い関係にあるかを測る尺度もあります。ベーコン数と呼ばれる数は映画俳優であるケビン・ベーコンと映画の共演者を介して何人でつながるかという尺度です。本人との共演者の尺度は1になります。その共演者と共演したことがあるならば2になるわけです。ちなみに国内で活躍している役所広司氏のベーコン数は4です。さらに最近、特に活躍が目覚ましい菅田将暉氏は3となっています。数学の世界では、エルデシュ数が有名です。数学者として有名なポール・エルデシュとの論文共著者で辿る関係です。小さなエルデシュ数を有することが、半ば冗談で、半ばエルデシュに敬意を込めて名誉ととらえられています。アメリカ数学会のホームページからエルデシュ数を求めることができます。最近、アカデミー主演女優賞に輝き、スターウォーズでもヒロインのアミダラ女王を演じたナタリー・ポートマンはハーバード大学で心理学を専攻し、その業績論文からエルデシュ数5を有し話題になりました。ちなみに私のエルデシュ数は3です。
ベーコン数
http://oracleofbacon.org/
エルデシュ数
https://mathscinet.ams.org/mathscinet/collaborationDistance.html
ところで、このような「六次の隔たり」とサイバーセキュリティの関係ですが、暗号鍵の探索やファジングと言った脆弱性検査を効率よく行うために応用されています。