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JEITAテープストレージ専門委員会コラム

2022年03月

磁気記録の可能性 磁気テープの記録容量はまだまだ向上する

HDDほど高い面記録密度になってくると、磁気記録にとって記録密度向上の「トリレンマ*」というものが出てきます。


*「トリレンマ」どれも好ましくない三つのうちから、一つを選ばなければいけない、という三者択一の窮地。


これについて簡単に説明します。


面記録密度を上げるということは、1記録bitを小さくすることです。そのためには磁性粒子を微細化していく必要があります。しかし、磁性粒子は小さくなると磁石としての力が弱くなり不安定になってくるため、時間が経つと磁化の向きがバラバラになって磁石としての力がなくなってしまいます。これは熱安定性が低下するといわれる現象です。磁気記録として考えると、一度記録した情報が時間と共に消えていってしまうということになります。 この熱安定性を高めるための方法は2つあります。一つは磁性粒子を大きくすることです。でも、面記録密度を上げるために磁性粒子を小さくしたいのですから、この方法を取ることはできません。もう一つの方法は磁石としての力を強くする方法で、小さくても強力な磁石にするという方法になります。磁気記録は磁気ヘッドから強い磁場を出して、磁気記録層の磁性粒子(磁石)のSとNの向きを書き換えることで記録をしているので、強力な磁石にするということは、簡単に書き換えることができなくなるということを意味します。 記録密度を上げるためには、磁性粒子を小さくしたいが、ただ小さくすると磁石が弱くなる、それを補うために強い磁石を使うと記録しにくくなってしまう。この状態が磁気記録のトリレンマです。



今回のHDDの発表は、このトリレンマの中の記録しにくくなるという部分を、記録の時にエネルギーアシストという新しい技術を用いて解消する方法になります。エネルギーアシストの中でも、磁性粒子に電子レンジで使われる様なマイクロ波を当てると磁石のSとNの切り替えがしやすくなるという現象を利用した方式です。そのままでは磁気ヘッドだけの力では書き替えることができない強力な磁石でできた記録層を、記録する部分だけにマイクロ波を当てて書き込みやすくするという技術になります。このように磁気記録は新たな技術を開発することにより面記録密度の向上を目指しています。 LTOに代表される現在の磁気テープは面記録密度の点ではHDDの1/100程度しかないので、すぐにこの問題にぶつかることはありませんが、面記録密度を追っていくと近い将来この問題を乗り越える必要が出てくると思います。その時は、HDDで開発された技術が役に立つかもしれません。 これまでも磁気テープは、HDDで開発されてきた記録再生ヘッドや記録方式などの技術を、磁気テープ用に適合させることで記録密度の向上を図ってきています。それもあって磁気テープの面記録密度は、今でも年率30%程度の向上を維持し続けています。



そして、面記録密度がHDDの1/100程度にもかかわらず1巻あたりの記録容量(体積記録容量)がHDDとほとんど変わらないのは、カートリッジ1巻に入っている磁気テープの磁性面の面積がHDDの100倍もあるからです。LTO-9カートリッジの中には厚みが僅か5μmほどの磁気テープが1km以上も巻かれています。面積にすると13㎡を越え、たたみ8畳分にもなります。カートリッジ一巻にこの面積を収納できるのは磁気テープしかありません。



磁気テープは、記録面積がHDDの100倍にもなるという優位性を持っていることで、すでにHDDで確立された磁気記録技術を使ってカートリッジの記録容量を上げることが可能になります。 HDDの記録密度向上が進む限り、磁気テープには面記録密度を上げるためのルートが示されているとも言えます。



まだまだ記憶容量を向上できると考えられる磁気テープストレージは、データの重要性が高まりデータアーカイブ量が増え続けている現在、大容量を安定して保存できるシステムとして重要な役割を担うと考えられます。



 

一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA) テープストレージ専門委員会


https://home.jeita.or.jp/standardization/committee/tape_storage.html


本内容にてご質問などございましたら、JDSF事務局経由でお願いいたします。

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